第2回 遊びの環境づくり
子どもの遊びを促す親の働きかけは「ほめる・はげます・ひろげる」の3H

子どもには自由に伸び伸びと楽しく遊んでほしい--そう願っていても、どうすれば楽しく遊ばせられるのかわからない、あるいは子どもの遊びについ口出しをしてしまうという人が少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、子どもの遊びの環境づくりや子どもの遊びを発展させる親の働きかけについてお話を伺いました。

子どもが真剣に遊んでいるときは声をかけず見守ってほしい

内田
上田先生は、子どもの遊びを創出する空間や時間をどう作るかに取り組んでいらっしゃるそうですね。子どもが熱中して真剣に遊ぶ空間と時間を保障されているかどうか、そして大人がどう関わるかは、とても重要です。
大宮
ごっこ遊びのように「○○遊び」でないと、遊びではないと思う人もいます。でも、子どもは紙1枚でも遊びになる。子どもなりに集中して遊んでいるとき、大人が「何してるの?」と声をかけてしまうことで、子どもの遊びが中断したり終了してしまうことがよくあります。子どもが本気で集中するためには、親は時には「何をやっているのかな」と見守っていたほうがいい。大人は自分も理解したくて言葉で説明させようとしますが、子どもはただ楽しくて遊んでいるわけですから……。
内田
大好きなお母さんに声をかけられると、子どもは手も頭も止まってしまう。言葉をかけるなら遊び終わってから、「楽しそうだったわね、何してたの?」と聞けばいいと思いますが、最後まで見守っていれば、子どもが何をしているのか、だいたい想像がつくはずです。
上田
親が子どもの遊びに興味を持ち、共感するというか、楽しそうだなと思う気持ちが大切ということでしょうか。
内田
まさにそうだと思います。子どもにとって遊びは世界に主体的に関わり、そして世界を知る活動であることを親が知っておくことが大切です。楽しいから遊ぶ、遊ぶから楽しい。楽しさの中から、実はいろいろな栄養を吸い取っているのです。
大宮
幼稚園の池の鯉が全部で何匹いるのか知りたいと思い、仲間で相談をして、四角い池を4分割し、僕はここ、君はそっちと分担して数え、最後に4つを足そう、と考えた子どもたちがいました。先生が「数えてみよう」なんて言わなくても、子どもは遊びの中で合計数、部分と全体など、就学してから習う数量概念を自分で作り出しているんですね。ドリルで数の勉強をさせなくても、遊びを通して子どもが自分で概念を作り上げていくところが、幼児期の大きな特徴です。
上田
そういう経験をたくさんしておく必要がありますね。
内田
五官を使った体験と、人から聞いたり本で見たりした疑似体験をあわせて「経験」です。経験が豊かであればあるほど、描き出すイメージの世界は豊かになると思います。

プレイフルでなければ脳は働かない 夢中になることで創造的な活動が生まれてくる

大宮
親は将来のことを考えて、小学校の勉強を先取りしようとしたりしますが、子どもたちが自分で考えるための材料を取り込むためにやることは遊びが大事。学校教育には学習目標や単元がありますが、幼児期の遊びには「今日は算数をやりましょう」などということがありません。毎日、子どもが自分の興味にしたがって遊ぶ中に、考える材料が雑多にあるのが幼児期の特徴です。そのあたりを親が理解していないと、「そんなことをしても役に立たない」とか、「こっちの遊びをやらせたい」となってしまうのだと思います。
上田
人は自分が興味のあること、面白いと思うことに突き動かされます。私は「楽しく学ぶ」のではなく、「楽しさの中にこそ学びがあふれている」と考えていて、「プレイフル・ラーニング」と呼んでいます。「プレイフル=ワクワクドキドキする心の状態」ですが、ただ楽しいだけではなく、夢中になることで創造的な活動が生まれてくる。他者との関わりも重要で、先ほどの鯉のお話もそうですが、本気になって何かをしたいと思ったときに、1人ではできないかもしれないけれど「あの子とだったらできるかな」「一緒にやったらこれだけできるんだ」というふうに、仲間と一緒にやったらもっと面白いことができるというマインドセット(心の姿勢、心のあり方)も育ってきます。
内田
脳科学的に見ても、ワクワクしているときやハッピーな気分のときは、扁桃体に情報伝達物質がどんどん送られ、海馬が活性化して目の前の情報をどんどん記憶貯蔵庫に入れるので、学習能力や記憶力が高くなるんですね。不快な気分のときは、似たような体験の記憶が海馬でよみがえり、頭が働かなくなってしまう。無理にお勉強をさせても身につかないのです。
上田
脳は ”プレイフルブレイン” と呼んでもいいほど、プレイフルな臓器(器官)で、プレイフルになればなるほど活性化するのではないでしょうか。僕たちが今やろうとしているのは、プレイフルになれる遊びや学びの場をどうデザインするか。そのときに重要になるのが空間とオブジェクト(道具)、そして、共感してくれる周りの人たちです。

子どもにとって親は安全基地 そばにいることで安心して遊ぶことができる

大宮
子どもにとっては人的環境が本当に重要で、大好きなお母さんがその場にいるだけで、子どもは安心して遊べます。常に関わらなくてよいし、むしろ関わりすぎるのはよくありません。親は自分が子どもにとって環境の一部であり、安全基地だということを頭に入れておけばよいのではないかと思います。
内田
遊びを展開させるために親の関わり方として大事なのは、誰かと比べて「お兄ちゃんはこれできるわよ」などと言わず、楽しそうにしていたら「楽しそうね」と言うこと。それから、子どもが何か疑問を持ったとき、教師のように説明してしまわないこと。「どうしてかしら」と一緒に考えるといいですね。子ども自身が考える余地を残すことが何よりも大切です。私は子どもが楽しく遊んでいるときに大人がとるべき態度は3つのH、つまり「ほめる」「はげます」「ひろげる」だと思っています。「ひろげる」は視野を広げるという意味です。子どもがつまずきそうになったときには、命令したり説明したりするのでなく、「こうしたらどうかしら」「こっちにもあるみたいね」と少しヒントを出して、視野を広げてあげるといいですね。
上田
素晴らしいお話ですね。3Hは大学のゼミの教育にも当てはまるし、学校教育だけではなく、社会にでてからも人間関係を築いていく上で大切な考え方だと思います。家庭での誉め方や励まし方も親の姿勢や価値観によって変わってきます。例えば、何でもかんでも誉めるのではなく、頑張ってやった努力を誉め、達成できたときには一緒に喜ぶ。そういうことが家庭の文化になっていくことが大切なのではないでしょうか。
内田
「子育て」とかけて「盆栽」と解く。その心は「まつときく」。しっかりと待ち、子どもの心の声を聴くと、心の中のつまずきが見えてきます。そのときに手を出したり説明をしたりするのではなく、「足場をかける」。ブルーナの言うScaffoldingで、足場をかけると子どもは見晴らしが良くなりますから、一歩踏み出せます。どちらの方向にどう歩みだすかは、子ども自身が決定することだと思います。

※足場かけ:Scaffolding
教育心理学者ブルーナーの理論。学習者単独ではできない課題を、親や先生など、より能力のある他者が援助し、できるようにすること。

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