第1回 子どもの遊び・学びと親子のコミュニケーション
遊びは子どもにとって主体的な活動であり、
思い切り遊ぶことでいろいろな力を身につけていく

「幼児の遊びと学びプロジェクト」は、「遊びの中で学びを見つける」という発達心理学の研究に基づき、幼児期における子どもの“遊び”のありかたを考えていくものです。  なぜ子どもにとって遊びが重要なのか。そして、親は子どもの遊びとどのように向き合えばよいのか。プロジェクトメンバーの先生方にお話しいただきました。

自由にたくさん遊んだ子どもたちは語彙が豊かで就学後の国語力も高い

内田
子どもの遊び・学びについて考える糸口のひとつとして、2008年に幼児期の読み書き能力や語彙力、親のしつけスタイルなどを調べた調査研究があります。(「幼児のリテラシー習得に及ぼす社会文化的要因の検討-日韓中越蒙国際比較研究-」ベネッセ次世代育成研究所の研究助成)。
もともとは、経済格差が学力格差を生むとよく言われることに疑問を持ち、本当にそうなのか、いつから格差が始まるのか、経済状況によって親子のコミュニケーションに違いがあるのかといったことをきちんと調べたいと思って始めたもので、約3000人の3~5歳児と個人面接を行い、保護者や保育者にも協力してもらいました。
大宮
対象は都内の幼稚園、保育園で、低所得層と高所得層が同じくらいになるように、また公立と私立、一斉保育と自由保育など、保育の形態にも配慮してデータをとっています。小学校に入ってからの学力を調べるため、追跡調査も行っています。
上田
興味深いですね。どんな結果が出ましたか?
内田
「読み」についてはひらがなを読ませる課題を行い、「書き」は丸や三角、「わ」の文字などを模写させる課題を通して、鉛筆を持ち文字を書く準備ができているか、指先が器用に動くかを調べました。そうすると、読み書きに関しては所得格差の影響は見られませんでした。語彙検査では高所得層で得点が高かったため、塾などに通っているからではないかと考え調べてみましたが、塾や習い事に通っているかどうかによる差はありませんでした。
大宮
一斉保育と自由保育では、自由保育の子どものほうが語彙が豊かでした。追跡調査として、小学校1年生の3学期に読解力テストをしたところ、幼児期に語彙が豊かな子どもは成績が良かったです。
内田
幼児期にたくさん遊ぶ時間をもち、自由に自分の好きな遊びをしていた子どもたちのほうが語彙が豊かで、就学後の国語の成績も高いという結果が出たわけです。経済の要因をコントロールしても、子どもの主体性を大切にし、遊びを中心にしている園に通っている子どものほうが語彙が豊かでした。
上田
うなずけますね。子どもにとって遊びは主体的な活動であり、思いっきり夢中になって遊んだ子どもたちはいろいろな力を身につけているのだと思います。

親子の楽しい時間を大切にする「共有型」のしつけが子どもを伸ばす

内田
もうひとつは親の関わり方です。私たちは、親子のふれあいを大切にし、子どもと楽しい経験を共有したい、子どもと一緒に何かをするのが好きというようなタイプを「共有型しつけ」、子どもへの指示が多く、子どもを自分の思い通りに育てようとするタイプを「強制型しつけ」として、両者を比較してみたのですが、共有型のしつけを受けた子どものほうが伸びるということがわかりました。高所得層でも、親がレールを敷き、あちこちの塾に連れ回しているような家庭では、子どもは伸びないのです。
上田


それはとても大切なメッセージですね。
大宮
モニター調査で親子で遊んでる映像を見ていても、強制型の場合、例えばお絵描きのとき、「好きな色で描いていいのよ」とお母さんが言った後、子どもが黒のクレヨンに手を伸ばすと、お母さんが「あら、黒にするの?他の色にすれば?」と……。
上田
せっかく自分で選ぼうとしているのにね。
大宮
でも、お母さんは「黒はよくない」と思っていて、口出しをしてしまう。子どもは結局、親の顔色を見ながらクレヨンの色を選び、自分が好きなようにではなく、お母さんが好きなように絵を描くようになってしまいます。そういう子どもは他の遊びの様子を見ていても、自分から遊びに行きません。
内田
経済層が似ている家庭でも、共有型と強制型では子どもの態度が違います。親子でブロックパズル課題をやってもらうと、はっきりとわかります。共有型しつけのお母さんたちは子ども主体で、子どもがやりたいことをどんどんやらせ、自分から説明したりはしません。一緒に楽しもうという感じがあるんですね。ところが、強制型しつけのお母さんは、子どもが何かやろうとすると「それは難しいから、まずこっちをやって、次にこっちをやりなさい」「きれいに並べなさい」などと言ってしまう。「教えよう」と気持ちが強い。子どもは親の指示を待ち、親の顔色をうかがいながら行動していて、これは子どもが自分で考えたり創造したりする機会を奪っているなと思いました。意欲も育たないでしょうね。
上田
親の働きかけが子どもの考え方や子ども自身が世界とどう関わっていくのかという基本的な態度に大きく影響しているのですね。
内田
その通りだと思います。共有型では子どもが自分で考え判断し、そして自分で選択していく力が育ちますが、強制型の家庭の子どもは将来、伸びないのではないかという気がします。
上田
今の社会は、自分で考え、自分で判断して、冒険的なことにチャレンジできる人たちを望んでいます。今のお話を伺っていますと、子どもがやったことに対して誉めたり、励ましたり、さりげなく提案したり、一緒に喜んだりして、共感的に関わっていくということが重要であり、このことが、子どもが世界と関わっていくための基本的な態度や精神を育んでいくのだということなのですね。
大宮
誰でも他の人の良いところを見つけるのは難しいですよね。ここが悪い、ここができていないと言うのは簡単ですが、良いところを誉めるには、相手をしっかり見て関わることが必要になってきます。相手のためを思う気持ちももちろんあるけれど、良いところを見ない、あるいは見れていないから、つい悪いところを指摘してしまう。そこが難しいところかもしれません。
上田
やっぱり、「お父さんやお母さんが子どもと一緒にとことん楽しむ」という経験を重ねていくことによって、子どもを見る眼差しが鍛えられていくのではないでしょうか。

PAGE TOP