第2回シンポジウム

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乳幼児の発達を支援するキャラクターの役割

2013年9月8日。東京・多摩市にあるベネッセコーポレーション東京本部にて、「こどもちゃれんじ25周年記念シンポジウム」が開催されました。今回のテーマは『乳幼児の発達を支援するキャラクターの役割』。まずは二十年以上の長きにわたり<こどもちゃれんじ>の監修に深く携わっていただいている、筑波大学監事・お茶の水女子大学名誉教授 内田伸子先生より、「乳幼児の発達を支援するキャラクターの役割 ~しまじろうパペット誕生秘話~」と題した講演を、次いでアメリカ・ジョージタウン大学心理学科教授 サンドラ・カルバート先生より「子どものメディアとキャラクター」について、ご講演いただきました。終了後は熱心な質疑応答が続き、乳幼児の発達とキャラクターやメディアとの関連性についての関心の高さが伺えました。

当日のプログラム

  1. (1) 講演:乳幼児の発達を支援するキャラクターの役割 ~しまじろうパペット誕生秘話~ ※内田伸子 筑波大学監事・お茶の水女子大学名誉教授
  2. (2) 講演:子どものメディアとキャラクター ※Sandra L. Calvert ジョージタウン大学教授

(1) 講演:乳幼児の発達を支援するキャラクターの役割 ~しまじろうパペット誕生秘話~ ※内田伸子 筑波大学監事・お茶の水女子大学名誉教授

子どもはとても楽しい気分でないと学べない

  今日は乳幼児の発達を支援するしまじろうの誕生秘話、と題して、子どもを伸ばす子育ての提案をしたいと思います。子どもは遊びを通して世界づくりをしていきます。特に生後10か月頃、つまり私が「第一次認知革命」と名付けている時期にイメージが誕生し、ものの認識が始まります。記憶し、思い出すこともできるようになり、人との関係性が出てくるので、周囲の大人と関わりながら学ぶことができるようになります。しかしこのときに大切なのは、 「子どもは楽しい気分でないと学ぶことができない」ということ。子どもは、身近な大人との“楽しい”会話(社会的やりとり)を通して、世界づくりを進めていくのです。

「共有型子育て」で育つ語い力の差

 私たちの調査では、おうちのかたとの触れ合いを大切にし、子どもと楽しい経験を共有したいと考えている「共有型子育て」のご家庭では、子どもの読み書き、語い得点が高くなるのに対し、なにかと子どもに指示を与える「強制型子育て」のご家庭では所得に関わりなく小学校になってからの同項目の得点が低くなることがわかりました。では、共有型子育てと強制型子育てがどのように違うのか、詳しく見てみましょう。

高所得層でお母さまが高学歴、専業主婦のご家庭を家庭訪問し、ブロックパズルを使って課題を解く場面と、絵本の読み聞かせをする場面の母子のやりとりを観察したところ、子どもへの言葉かけにはっきりとした違いがあることが判明しました。共有型子育てをしているお母さまは、子ども自身に考える余地を与える言葉かけや援助的・共感的なサポートを与え、また子どもの反応に敏感で、子どもに合ったやり方を柔軟に調整していました。そのもとで子どもはのびのびと探索したり、主体的に動き回ったり、自分で考えて行動することができています。こうしたなかで子ども達は豊かな語いの世界を広げることができるのだろうと思われました。
 これに対して、強制型子育てをしているご家庭では、考える余地を与えず、トップダウンで指示的に介入し、勝ち負けの言葉が多く見受けられました。こうした状況のもとでは子どもは主体的な探索ができず、おうちのかたの顔色を見ながら行動するため、子どもの語い力は下がるだろうと考えられます。

3つのH(ほめる・はげます・“視野を”ひろげる)で楽しく関わって伸ばそう!

やりとりが楽しいと子どもが伸びるということは、脳科学からも説明できます。4~5歳の時期に脳の扁桃体で緊張や不快を感じると、海馬で失敗例がよみがえり、ほかのことが考えられなくなります。一方扁桃体が「面白い」「楽しい」と感じると、ワーキングメモリーに情報伝達物質が送られ海馬を活性化し、情報を記憶貯蔵庫にどんどん蓄えることができるようになります。これこそが「好きこそものの上手なれ」という状態。共有型子育てをしているお母さまがたがよくやっていた言葉かけは、「3つのH(ほめる・はげます・“視野を”ひろげる)」に集約されます。ぜひお子さまにはこうした言葉をたくさんかけて、親子で楽しく会話しながらのびのびと伸ばしていただきたいと思います。

50の文字を覚えるより100の「なんだろう?」を育てたい

 私は20年ほど前から<こどもちゃれんじ>の開発のお手伝いをしてきましたが、当時の担当者のかたと一緒に考えたのが、「50の文字を覚えるより100の“なんだろう?”を育てたい」という基本方針でした。決してお勉強をさせるのではなく、おうちのかたとの楽しいやりとりの中で、乳幼児期の子どもは自分自身を広げていきます。自分から本当にやろうとしないと力にはなりません。一旦関心をもてばあっという間に習得できるものです。大切なのは、文字が書けるかどうかではなく、文字で表現したくなるような内面の育ちなのです。私は、自分で考える力と“創造的な想像力”を育てることが、乳幼児期の子どもの発達課題である、と確信しました。

パペットという存在が間に入ることで
親子の会話をより楽しく、豊かにしてくれる

 次に私たちは認知発達の立場から、「どうしたら子どもと楽しい会話ができるか?」を考えました。子どもはよく知らない大人にはなかなか話してくれないものですが、私たちの研究所では、パペットを使うことによって子どもから思いや発話を引き出すことに成功しました。例えば助数詞(匹、本、枚、頭…など)を獲得する過程について、パペットのジョジョちゃんが助数詞を間違えたら子どもが教えてあげられるかどうか? という実験をしたところ、なんと2歳児でも「ジョジョちゃんが間違えたらぼく教えてあげる!」と言って反応してくれました。第三者、それも幼児と対等なもう一人の存在があることが、子どもの“楽”習を進めてくれる…。こうした経緯から、「しまじろう」は生まれました。ときには悪い子、ときにはロールモデル、そして何よりも大好きな友だちとして、いつも子どもの生活のそばにいる存在としてのしまじろうが誕生したというわけです。

 もうおわかりだと思いますが、子どもを伸ばすのは、まぎれもなく「共有型子育て」です。大切なのは「待つ」と「聴く」。子どもの心の声をしっかりと聴くことで、子どもの声が聞こえ、子どものつまずきを見抜く洞察力も生まれます。その後、子どもの考えを先に進められるような足場をかけ、見通しをよくしてあげましょう。決してレールを敷いて走らせるのではなく、見晴らしをよくして子ども自身が自分の進む道を探していけるように。そうした関わりの中でこそ、子どもは自分の世界づくりをしていけるのです。日々の暮らしの中で、お子さんとの触れ合いを大切に、楽しい経験を共有していただきたいと思います。

内田 伸子(うちだ のぶこ)
筑波大学監事、お茶の水女子大学名誉教授。学術博士。専門は、発達心理学、認知心理学。長年にわたり<こどもちゃれんじ>の監修や商品検証にかかわり、NHK、教育テレビのコメンテーター、子どもの絵本やビデオの監修などでも活躍。『発達心理学―言葉の獲得と教育』(岩波書店)、『乳幼児を育てる―妊娠から小学校入学まで』(共著・岩波書店)、『乳幼児の心理学』(有斐閣)など著書多数。

(2) 講演:子どものメディアとキャラクター ※Sandra L Calvert ジョージタウン大学教授

疑似社会的関係は学習にどう影響するか?が研究の原点

 アメリカの乳幼児はメディアを多用しており、2~4歳で毎日だいたい2時間くらいメディアと接しています。幼児は、一般的に、平面上に映し出される情報を現実の世界に落とし込めず、なかなか現実で行うような学習効果は得られないということが報告されています。また子どもはキャラクターとの間に疑似社会的関係を築くといわれていますが、疑似社会的関係とはいったい何で、それはどう発展していくのか? 私はこれらに興味を感じて探求しようと思い、研究をすすめてきました。

キャラクターと疑似社会性をつくるには
人間性、存在、愛着が不可欠

 フレッド・ロジャース(※1968年から2001年まで30年以上続いたアメリカの子ども向け番組の主人公。「セサミストリート」に抜かれるまでは「PBSチャンネルで最も長続きした番組」の記録を持っていた。)は、テレビの中から子どもたちに優しく語りかけ、視聴者との間に疑似的にやりとりをする関係をもちました。彼は非常に子ども好きだったので、画面から、子どもたちへの愛情や共感の気持ちが伝わってきました。
 私たちは、キャラクターと子どもの疑似社会性について、米国の0~8歳児を持つおうちのかたに対してオンライン調査を行いました。そのなかで子どものお気に入りのキャラクターについて質問したところ、以下のことが判明しました。
 キャラクターが子どもの友だちになるには、人間的な要素が必要であるということ。そしてそこに「存在」していると思えること。また、「愛着」というキーワードも重要で、子どもと友だちになるには、心地よく、子どもを安心させてくれる存在でなければならないことがわかりました。

キャラクターをひとりの人間として扱うおうちのかたの関わりで疑似社会性は育まれる

 パペットと子どもの間におうちのかたが入ることによって、パペットと子どもに感情的な結びつきが生まれます。ここで重要なのは、おうちのかたがパペットをあたかもひとりの人間のように扱っていることです。
 例えばキャラクターが現れたらそのキャラクターの名前を呼ぶところから始まり、くり返し触れ合えることも大切。また、スクリーンで見られたり、おもちゃやぬいぐるみとして遊べたり、シールやステッカーなどで目に触れたり…といろんな場面でくり返し触れ合えることも、関係性を発展させるうえで欠かせない要素です。
 「キャラクター」にあたかも人間性や感情があるかのように関わることで、子どもはそれをよりリアルに感じられるのです。こうして実際に触れるキャラクターのおもちゃで遊ぶときには、食べさせたり、寝かしつけるなどの養育行為をしながら関係性を身につけていきます。

好きなキャラクターとの会話を通した遊びが子どもの課題解決力にも影響する

 さて、私たちは、アメリカの子どもたちに対して、アメリカで非常に人気が高いセサミストリートの「エルモ」と、台湾では人気のキャラクター「ドードー」を使って、初期の数学的課題(コップ重ね)をどれだけ解くことができたかを比較調査をしました。その結果、エルモのビデオを見た後の21か月の幼児は、ドードーのビデオを見た幼児や対称群よりもコップ重ねの成績がいいことがわかりました。また、前もって3か月間ドードーと触れあった子どもたちは、実験の日にドードーのビデオを見た子どもたちやなんのビデオも見ていない子ども達よりも高い得点を得ることがわかりました。また別の調査では、キャラクターのおもちゃで大人と一緒に遊ぶと、キャラクターのお世話をするなど養育的行為が増え、学習の転移が進むことが判明しました。

まとめ:おうちのかたの関わりでお気に入りのキャラクターになり、
今後、効果的な先生になる可能性を秘めている

 これらのことから、キャラクターを一人の人格として扱うことが重要であり、会話を通した遊びにキャラクターとの関係が発展するカギがあるということがわかりました。たとえば、食べさせたり寝かしつけをするなど、共感的にキャラクターの世話をするなどです。この環境設定をするにあたり、おうちのかたが共感的に子どもの感情を共有することが大切になってきます。また初期の数学学習から、エルモやドードーのように、子どもにとって疑似社会的関係性を構築できるキャラクターとのやりとりで、より高いパフォーマンスで課題解決できることも裏付けられました。彼らキャラクターは、単にスクリーンの中だけでなく、実生活の中にも存在し、あたかも友だちでもあり、先生にもなりうる存在になるよう、おうちのかたが環境設定することが重要です。
 そうすることで、そのキャラクターが、幼児のお気に入りのメディアキャラクターになり、その先21世紀の効果的な先生となることも、これらの実験から得られた知見といえます。

Sandra L. Calvert(サンドラ・カルバート)
ジョージタウン大学心理学科教授。国立学際的研究所“子どものデジタルメディアセンター”のディレクター。米国心理学会の第7文化会・国際コミュニケーション学会のフェローであるとともに、Joan Ganz Cooneyセンター・PBS Kids Next Generation・IOE、Children Nowの顧問のほか、数々の企業コンサルティングに関わっている。
(構成・文 永田久美子)