第1回シンポジウム

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デジタル化時代の幼児の学び

2013年7月13日。東京大学・本郷キャンパス内福武ホールにて、「<こどもちゃれんじ>25周年記念シンポジウム」が開催されました。マサチューセッツ工科大学<MIT>教授・MITメディアラボ副所長の石井裕教授に、これからの時代を生き抜く上で必要な力についてご講演いただいたあと、こどもちゃれんじ事業部部長 藤井美帆より幼児向けの最新デジタルメディアについて紹介させていただきました。パネルディスカッションでは「子どもとメディア」にとどまらず、「メディアと本質的メッセージ」をテーマに石井裕教授と専門家の先生方の熱い議論が繰り広げられました。

当日のプログラム

  1. [1] 基調講演「世界学習/異文化競創を通して」 ※石井裕 マサチューセッツ工科大学<MIT>教授、MITメディアラボ副所長
  2. [2]「幼児向けデジタル教材の取り組みについて」
こどもちゃれんじ事業部部長 藤井美帆
  3. [3]パネルディスカッション「新しいメディアと子どもの教育環境について」※石井裕 マサチューセッツ工科大学<MIT>教授、MITメディアラボ副所長※一色伸夫 甲南女子大学教授※菅原ますみ お茶の水女子大学大学院教授※佐藤朝美 東海学院大学専任講師

[1] 基調講演 「世界学習/異文化競奏

 皆さんも日々感じられているように、今、社会は急速に国際化していますね。子どもの教育において、従来通りの「読み書きそろばん」のベーシックな力を育てることはもちろん必要です。しかし今後子ども達に求められるのは、そこから先の視点、つまり国際社会の中でどのように協創するか、協創から生まれたアイディアを誰に向けてどう発信するか? その発信を通して世界をどう変えていきたいか?といった視点をもつことが重要になってきます。

 こうした視点は島国の同質な集団での競争では決して育ちません。海外に出ると、外国の人々の思考・感覚・信念・価値観・規則・文化が日本のそれらとはまったく違うことに気づきます。これを理解しないと、発信もできないし、受け止めることもできないのです。
ではどうしたらいいか? 自分とはまったく違った価値観をもつ人たちの中に飛び込み、ぶつかり合い、競争し、ともに創造していくことでしか身につかないのです。私はこれを「海外雄飛による異種格闘技」と呼んでいます。

 今回の講演は<こどもちゃれんじ>ですから、お客様は幼児期のお子さんをおもちのお母さんだったり、幼児を対象としたお仕事をされているかたかもしれません。将来的にお子さんを「海外雄飛」させ、どんどん他流試合をさせる心の準備は、今のうちからしておかれるといいのではないでしょうか。 若い人々を違う文化の中に放り込むと、彼らは多様性に気づきます。するとこれまで日本の環境で育ってきた自分の、非力さ、柔軟性のなさ、論理性のなさ、思考の閉塞感にハッとさせられるでしょう。このショックを乗り越え、多様性に感謝し、尊敬し、自分の理念を他の価値観に翻訳する努力をすることが大切です。戦って相手を負かすのではなく、お互いのいいところを認め合い、新しい共通ルールを作りながら成長し、未来をつくっていくこと。これこそが本当の学習なのです。ぜひこれを若いうちに経験していただきたいと思います。

 幼児期は、知的好奇心を育てたいですね。難しい問題ですが、これと相反するのが受験戦争ではないかと思います。正解が用意されていて、それにたどり着くまでのテクニックを学ぶ・・・しかしこれでは正解の存在しない実世界での戦いには通用しない。どのようにして正解にたどり着くかというテクニックではなく、一番大切なのは、「なぜ?」「どうして?」という問いです。この好奇心から発せられる問いをじっくり育み、これまで誰も問わなかった問い、そして「本質的な問い」を発する力を鍛えることが大切だと思います。

石井 裕(いしい ひろし)
1956年東京生まれ、1978年に北海道大学工学部卒業。同大学院情報工学専攻修士課程修了、日本電信電話公社(現NTT)に勤務ののち、西ドイツのGMD研究所客員研究員、NTTヒューマンインターフェース研究所を経て、1995年、MITメディアラボ教授に就任。タンジブル・ビットの研究で、世界的な評価を得る。著書に『タンジブル・ビット/情報の感触 情報の気配』ほか多数。

[2]プレゼンテーション 幼児向けデジタル教材の取り組みについて

 このたび、<こどもちゃれんじ>は25周年を迎えることができました。<こどもちゃれんじ>は年齢別に講座が分かれており、絵本、DVD、玩具(エデュトイ)など、その年齢のお子さまに合った遊び・学びを応援する商品構成になっています。日ごろから私たちが大切にしているのは、子どもに対して提供するものが紙であれデジタル教材であれ、学ぶテーマに最適な教材であることです。
 石井先生の基調講演の中に「本質的な問いを発する力が大切」というお話がありましたが、子どもは日々「何だろう?」「どうしてこうなるの?」という人間の初期段階の素朴な問いを発しています。この大切な幼児時代の育ちをいかに支援していけるか、これを日々考え、これからも教材を作っていきたいと思います。では<こどもちゃれんじ>の最新のデジタル教材をご紹介しましょう。

空想どうぶつえん
iPad上でパーツを組み合わせ、色を塗り、直感的な操作でお子さまだけの「空想どうぶつ」ができあがります。空想どうぶつはぴょんぴょんトコトコ動き回り、吹き込んだ鳴き声で話しかけてくれます。また世界中のお友だちのどうぶつとも出会えてコミュニケ-ションできます。
「空想どうぶつえん」のご紹介
音声スキャナー&専用ブック
 音声スキャナーで専用ブックをタッチして音声を聞き、ことばを増やせるだけでなく、聞いて考える力も養えます。「子どもが夢中になって遊びます」という声や「どんな仕組みになってるの?」というおうちのかたの質問もたくさん寄せられています。
「音声スキャナー&専用ブック」をWEBで体験
Tangiblock
石井先生にコンセプト段階から関わっていただいて現在開発中の、「Tangiblock」の紹介です。積み木とiPadを組み合わせたまったく新しいデジタル教材です。

こうした新しいメディア教材は、学びの可能性を大きく広げてくれますが、「夢中になりすぎる」「人の話を聞かない」など、おうちのかたが気になるポイントもあるようです。<こどもちゃれんじ>では、子ども・おうちのかた、デジタル教材がどうかかわっていくことで子どもにプラスの影響を及ぼすのか、そこを追究していきたいと考えています。

<乳幼児の親子のメディア活用調査>

ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 高岡純子

乳幼児の生活にメディアはどの程度入ってきているのか、おうちのかたは子どもが育つ環境をどのように整えているかを調べた最新の調査結果をご紹介します。
●0歳6か月~6歳の親子の生活に、スマートフォンなどの新しいメディアの活用が急速に広がっています。母親がスマートフォンを使用している2歳児の2割が「ほとんど毎日」スマートフォンに接しており、使用場面としては「外出先での待ち時間」が5割を超えています。
●親子でテレビなどの視聴ルールを定めている率に比較して、スマートフォンなどの新しいメディアについてルールを設定している率は相対的に低く、使い方を模索中の段階であると考えられます。
●保護者は、学習アプリ・ソフトの使用について、可能性と気がかりの両面を感じていることがわかりました。

乳幼児の親子のメディア活用調査(速報版)の詳細はこちらをご覧ください。

[3] パネルディスカッション 「新しいメディアと子どもの教育環境について」

テレビも新メディアも、使い方次第で豊かな親子コミュニケーションに

一色
ここ数年でスマートフォンやタブレット端末などが急速に普及したため、親が使うと同時に子どもも使う頻度が多くなっているようです。教育工学・学習環境デザインに詳しい佐藤先生は現状をどのように見ていらっしゃいますか?
佐藤
私は子どもがメディアを触ることによって子どもの中で何が起こっているか、その教育効果に興味があり、研究しています。子どもが幼児時代はしまじろうのヘビーユーザーでしたので、子どもと一緒に教材で遊びながら、「親子が対話し、関係性を豊かにするには親・子・メディアの三項関係をしっかりとらえることが大切だ」と思うようになりました。
 昨年はベネッセ次世代育成研究所の調査に参加して、親子の活動の様子を分析しました。その結果、日ごろから子どもとうまく対話しているおうちのかたは、どんなメディアを使っても、楽しみながら子どもに説明したり、できたことをほめるなど適切に声かけていることがわかりました。一方で、一部の親子には言葉が少なくなるなどの傾向も見られたため、既存のメディア同様、選定や遊び方、時間等についてその家庭なりのルール作りが重要だと考えています。
菅原
1950年代から普及し始めたテレビはすでに“オールドメディア”と呼ばれていますが、日本のほぼ100%の子どもたちが0歳から接している身近なメディアといえるでしょう。
 テレビへの接触時間の影響を調べた調査では諸説あるものの、就学前の子どもに関する研究(言語や共感性、認知発達など)では、ネガティブな因果関係は報告されていません。また、テレビの番組内容については、幼児向け教育番組を見たことで、想像力や人種に対する好みを好ましい方向に変えたり、後の認知能力を伸ばすポジティブな報告があります。一方、ネガティブなものとしては、親が見せたくないような攻撃的・性的な内容の番組を視聴することで、子どもの不安を喚起したり攻撃性を助長したりすることもあります。つまり、子どもにテレビを見せる場合、その子の年齢にふさわしい教育的内容の番組を選ぶことが大切だということです。 また、見せ方の工夫によって、子どもの発達への影響が違うこともわかっています。子どもと一緒にテレビを見ている大人が画面を止めて「どうしてかな?」と問いを投げかけると、子どもは一生懸命に考え、答えようとします。この答えに反応したり、答えようとする姿勢を励ましたりして対話型の見せ方をすると、集中度や内容理解、語い獲得にポジティブな効果があることが、実験的な研究で明らかになっています。

能動的に情報を取りに行き、組み合わせることで豊かな学びに

一色
石井先生のところは8歳と6歳のお嬢さんがいらっしゃるそうですが、テレビをはじめとするメディアにどのように触れさせていらっしゃいますか?
石井
わが家にはテレビはありません。youtubeを使い倒しています(笑)。テレビはチャンネルを選ぶだけなのに対し、youtubeにはいろんな番組があり、今自分は何を見たいのか決め、それを自分で検索する必要があります。
 学習という視点に立ったときに大切なのは、主体的、能動的にメディアと接することだと思います。今はソーシャルインタラクションの時代。同じサッカー中継を見ながらツイッターでコメントを書き込み、一緒に一喜一憂できます。つまり同じものを多くの人が見て様々な意見を交換できるので、多様な視点を共有でき、自分自身も積極的に発信しようという社会的インセンテイブを得る事ができます。さらに、「あの人のコメントはおもしろい」「この人の批評は共感できる」となれば、ツイッターのフォロワーも増え、テレビの見方もよりソーシャルに変わっていきますね。お子さんが成長すれば、主体的に情報を取りに行き、世界的な広がりをもって勉強できるようになるはず。大事なのは、変化する環境に適応し、活用すること。本当に面白い時代になっていると思います。

一色
ソーシャルメディアの登場により、よりインタラクティブになってきていますが、同時に親が気をつけなければいけないこともあるでしょう。親はどう介入していけばいいのでしょうか?
佐藤
「親も成長するんだ」という視点に立てばポジティブに取り組めるのではないでしょうか? また、メディアの進歩は日進月歩なので親がついていけないことも多々あります。そんなときは「親も新しいメディアの発見を楽しむ」つもりで関わればいいと思います。個人的には、今まで物理的に疎遠になっていたおじいちゃんやおばあちゃんとの関係を、メディアを使って復活させられたらいいなと思います。もちろん、単身赴任で遠いところに住む家族も。
菅原
私も、進化するメディアにうまく適応することに尽きると思います。私は最近では子どもから新しいメディアの知識を教えてもらうことも多くなってきました。リスク回避の視点を忘れず、楽しみながら適応していくことが大切ですね。

一色
MITメディアラボでは幼児向けのコンテンツの開発もなさっているんですか? 子どもの表現力を伸ばすには親はメディアをどう使っていけばいいのでしょうか?
石井
アメリカで成功して定着しているのはMITメディアラボのミッチェル・レズニック教授のグループが開発した「スクラッチ」で、今や世界中で相当数のコミュニティができています。対話的な物語やアニメーション、ゲーム、音楽、アートなどを小・中学生が簡単に作ることのできるプログラミング言語なのですが、大事なのは、これらの作品をWebで共有できること。「僕はすごいアイデアをもっているよ」「こんなの作ったんだ、見て!」と、人に見せるステージがある。さらに、「これはいいな」と思えばみんながそのアイデアをダウンロードして改造して新しい作品を作っていけます。シェアするだけでなく、シェアしたものを積極的にみんなで使うことで、自分のアイデアが広がっていくわけで、それが「やった!」という勲章になるわけです。 <こどもちゃれんじ>の「空想どうぶつえん」がすごいのもこのポイントで、自分で作ったものを世界中の友達に共有してもらえる。ソーシャルな要素がどんどん加わって動物が進化していく。可能性が広がっていきますね。九九も書き順も大切だけれど、違った文化の友達とこのアプリケーションの中で出会い、世界に興味を持ち、好奇心満々でコミュニケーションしてほしいと思います。

テレビでもネットの動画でも、ただ漫然と見るのではなく、徹底的に批評する訓練をすることが子どもの表現力につながっていきます。「この話、どう思う?」「この主人公かわいそうだよね?」「〇〇ちゃん、もっとこうしてあげればいいのにね」…というように、どんどん考えて言語化し、発信していくのです。同じものを見て「あ、ぼくもそう思ったんだ」「たしかにそうだよね」と反響が返ってくることでモチベーションも上がります。あらゆるものを積極的に自分なりに解釈し、新しい価値を加えてコメントし、発信すること。自分なりの視点で社会に貢献できることを学べるのです。

一色
幼稚園などの教育現場でもそうしたメディアをどんどん取り入れていけばいいと思いますが、一方で、小さい子どもにはバーチャルではなく実体験が必要とも言われます。このあたり、どうお考えですか?
石井
どのメディアで伝えるか、というのは、実はあまり本質ではないと思います。大切なのは中身。アイデア、情報、知、メッセージ、人。これらを広めるのに便利なのが新しいメディアです。バーチャルと実体験の対立構造を軽やかに乗り越えて、未来をデザインしていくことが大切ですね。
原稿執筆:永田久美子

基調講演の映像はこちら